産業医として、私が社員と面談をする時に、「働く目的は何ですか」という質問をすることがあります。その中で圧倒的に多いのは、「生活のため」「家族を支えるため」という回答です。
続けて「そうなんですね。では、それ以外にはどうでしょう?」という質問をすると、「考えたことないです」という返答は、意外と少なくありません。
|価値観は無意識だけど、実は「感情」に表れている
あらためて、「働く目的は?」と聞かれたとき、明確に答えられる人は多くはありません。それもそのはず、これは私たちがあまり意識してこなかった問いだからです。
しかし、私たち一人一人には、「仕事に求めるもの(=仕事の価値観)」が潜在的に存在していますし、個人によっても少しづつ異なっています。その証拠に、この価値観が満たされなかった時には、私たちは「ストレス」を感じ、「ネガティブ感情」も湧いてきます。逆に、価値観が満たされた時には「喜び」や「成長」を感じることができます。一見、数字や分析、合理的な判断が集中しているように思われがちな職場こそ、見えないところで様々な感情的問題が繰り広げられていることがあるのです。
たとえば、
エンジニアとして活動したいが、管理職に昇格してしまった時
人付き合いは不得手だが、クライアントとの折衝が多い業務で気を使ってばかりいる時
仕事と生活のバランスが崩れた時
人それぞれ、何にストレスを感じるかは異なります。これは、言うまでもなく個々のストレス耐性の違い、得手不得手、スキルの有無が大きく影響しています。ただ、忘れがちなのは、「そもそも自分は、仕事に何を求めているのだろうか」という、自分が大事にしている労働観への気づきです。
|「労働価値」という切り口で、「働く目的」を捉えなおす
私たちは、仕事を通じて、多かれ少なかれ「自己実現」を試みているのではないでしょうか。「自己実現」という言葉は、やや大げさに聞こえますが、それは「自分の価値観を大事に生きること」と捉えなおすこともできると思います。
ここで、経営学者で心理学者でもあったドナルド・E・スーパーによる労働価値を見てみましょう。スーパーは、人が仕事に何を求めるかについて研究し、「仕事の重要性研究」の中で14の労働価値をまとめています。
【あなたが仕事に求めるものー14の労働価値ー】
| 能力の活用 | 自分の能力を発揮できること |
| 達成 | 良い結果を出せた、という実感を得ること |
| 美的追求 | 美しいものを創り出すことができること |
| 愛他性 | 人の役に立てること |
| 自律性 | 他からの命令や束縛を受けず、自分で仕事ができること |
| 創造性 | 新しいものや考えを創り出せること |
| 経済的報酬 | たくさんのお金を稼ぐこと |
| ライフスタイル | 自分の望むような生活を送れること |
| 身体的活動 | 身体を動かす機会を持てること |
| 社会的評価 | 社会に広く仕事の成果を認めてもらえること |
| 冒険性 | わくわくするような体験/仕事ができること |
| 社会的交流 | いろいろな人と接点を持ちながら仕事ができること |
| 多様性 | いろいろな活動/仕事ができること |
| 環境 | 仕事環境が心地良いこと |
この14の価値観を見た時に、「自分にはこれがあてはまる」というのが2つや3つあったのではないでしょうか。それらが満たされると「楽しい」「充実している」と感じることができ、逆にできていないと「つまらない」や「ストレスだ」と感じてしまうのではないでしょうか。
私自身、「能力の活用」「自律性」「社会的交流」「環境」にとても強く影響されていると感じますし、過去に転職をした時も、そういった点から考えて選んだなと気づかされます。一方で、これらの価値観は永久に変化しない、というものではないと、私は考えています。価値観や優先順位は、自分のライフステージやその時の様々な環境要因によって変わっていきます。その変化に気がつくことで、「なぜ今ストレスを感じているのか」「充実感をあげるためにどんなアクションが必要か」といったことを考えてみると、仕事への向き合い方が楽になっていくのではないでしょうか。
|自分と同様に、周りの労働価値観も理解する
14の労働価値のリストは、是非自分の周りの方とも共有をしてみてください。一緒に働いている同僚や上司が、仕事においてどんなことを大事にしているかについて新たな発見があることでしょう。身近な人の価値観を知ることによって、それまでとは異なる関わり方を選択したり、より良い信頼関係をつくるための会話ができてくるかもしれません。
特に、それまでプレーヤーだった立場から、プロジェクト・リーダーや管理職に登用された場合、「人を理解し、力を発揮してもらうこと」が重要です。私自身、前職でコンサルタントをやっていた時、プロジェクト・マネジャーとして一人一人に合った仕事のアサインや承認等、とても苦労をした経験があります。プロジェクトが始まる前に、もっとメンバーを理解する機会をつくっていたら、全体としてのアウトプット、さらにはメンバーの充実感も高めることができたかもしれません。
”仕事を通じて、私はどんな価値観を実現したいのだろう”
このことを意識して仕事をしてみると、時間の使い方や、人とのコミュニケーションに変化が起きてくるかもしれません。
私たちは生きている時間のほとんどを働くことに費やしています。同じ日常でも、「今日も何となく仕事をした」という感覚から、「今日は少し疲れたけど、充実していた」という感覚に変える最初のステップは、まさに自己内対話による価値観の明確化からです。働いている時間量は変わっていなくとも、自分の中で意識することが変わったり、味わう感情や仕事への向き合い方が変われば、働くことの質が変わり、それも立派な働き方改革なのだと私は考えています。
ぜひ一度、ご自身の労働価値観を考える時間をとってみてくださいね。
