昨今、SDGsやESGが重要視され、多様性に対する見方も、これまでとは大きく変わろうしています。そんな中、先日、マシュー・サイドの「多様性の科学」を読みました。多様性がなぜ必要なのかを科学的に分析しようと試みており、その明快な解は、今日の複雑社会にとって光になると思いました。
「なぜ多様性は効果的に結果を出すのか」について、自分の経験を振り返りながらあらためて考えてみたいと思います。
|個人からチームへのシフト
病院で研修医として働いていたころ、私たちはほぼ常にチームで動いていました。地域の開業医で診断がつかない患者さんは、より高度な精密検査のために病院に紹介されます。そこでは経験値の異なる医師がチームを組み、時に他の専門家にコンサルテーションを行い、看護師から患者の日常変化を収集するといったように、一人の患者に多くの医療スタッフが関わります。集められた情報をカンファレンスで議論しながら、最終的に診断がつき、治療が開始され、そして患者の症状が改善していく。「一人で挑むには到底複雑かつ困難でも、チームという集合知なら解決できる」といったことを、社会人になってからすぐに経験できたのは貴重であったとあらためて感じます。
ビジネスの現場を見た時には、また少し違う印象を持ちます。1人1人の社員はある程度の能力とスキルが備わっていて、ある業務においては高い生産性を出している。しかし、別の業務においては頭を悩ませ、期待されているアウトプットが出せない。私自身、コンサルタントとして会社員をしていた時に、まさにそういう状態でした。医師にとっての診断とは異なり、企業活動には「これが唯一の正解」はありません。しかも、目の前の課題は複雑な要素が絡み合っていて、自分視点だけでは到底「妥当な解」までもたどり着けません。
1人で見える範囲、考えが及ぶ範囲は限られています。当時の私は、しばらく悩んだ後に「これは1人では無理だ」と潔く諦めました。そして、関わるメンバーを集め、各自の担当ケースの共有、それに対するフィードバックを相互に行う場を設定しました。結果として、自分のケースに対して多くのインプットがあり、1人で考えられる範囲を超えて、より質の高いアウトプットにつなげられたのです。これも、チームに備わっている多様性が活きた事象であり、それぞれの視点と経験値が異なることが大いに役立ったといえます。
|認知的多様性で集合知を得る
著者であるサイドは、先の現象をとてもうまく表現しています。下記の長方形は、ある問題を示す概念だとして、この中には解決や目標達成に必要な洞察力、経験、物事の考え方がつまっているとします。
①賢い個人

シンプルで小さな問題であれば、賢い個人が1人で対応することは可能です。しかし、企業活動においては、そのような問題群は限られており、複雑さを増した課題に直面しています。そうなると、四角は大きくなり、そこに必要なスキル、考え方、視点等も増えていき、1人では対応できる範囲が相対的に小さくなります。
②画一的な集団(クローン集団)

では複数の人数を集まれば対応可能なのでしょうか。1人ひとりは優秀で知識も豊富にあったとしても、考え方が画一的であった場合、そこでカバーし合う範囲は重複するため、結果的には問題空間を広くカバーすることができません。人は、同じ考え方の人に囲まれると、意見を肯定されるため、居心地が良いと感じるものです。しかし、複雑な課題解決においては、画一的な考え方は近視眼的になり、他の範囲が盲点となるために、偏った解を導くことがあるのです。
③多様性のある集団(賢い集団)

問題空間に内在する解につながる経験や知識は、それぞれ異なる場所から発出されます。画一的な集団と比べ、多様な個人の独自の視点は、それまでとは違った確度から視野を広げ、問題空間を幅広くカバーします。著者のサイドは、難問にさしかかった時にまずやるべきことは、問題の精査ではなく、一歩下がってどこがカバーできていないのかを考えることだと言います。そして、多様な考え方の人々を集めカバー範囲を広くすることで、有能な個人や画一的な集団より高い集合知を獲得することができるのです。
|多様性は個性から
組織に入ると、そこの文化や判断基準を知らずのうちに吸収し、考え方も同一化してしまいます。しかし、ここで見てきたように、社会課題が複雑化している今日においては、似た者同士よりも、いかに多様な個を活かしていくかがキーとなります。個々独自の経験や視点、考え方が集まることで、アイデアの融合や新たな観点が生まれやすくなります。現場で「自分とは違う視点」に出会った時には、是非興味深く取り入れてみてくださいね。
