メンタルヘルスOccupational HealthJournal女性の働き方
2024.04.17
女性社員の力を引き出す
メンタルヘルスOccupational HealthJournal女性の働き方
先日、ある会社で、とても部下思いで能力も高い女性管理職Aさんと話をしていた時に、「Aさんは、元々管理職になりたくてなったのですか?」と聞いてみたところ意外な言葉が返ってきました。
「まさか!私は上司から話があった時に、最初はずっと断り続けてたんです。まだ子どもも小さかったし、絶対無理だと。でも、私がやることで後輩(女性)たちにも良い刺激になると説得され続けて。若い会社で、私が女性の中で一番経験を積んでいたこともあって、後輩たちのためなら!と思って引き受けたんです。」
今では職務を全うされているAさんですが、実は最初は管理職を避けていたと聞いて、とても驚きました。
また、別の会社でも女性管理職Bさんと話す機会があり、「Bさんは、管理職になる時に抵抗はありましたか?」と聞いたところ、
「もちろんです。お話を頂いたときは、正直『自分なんて・・』と思っていました。でも、信頼のできる他部門の上級職の方から、あなただったらきっと大丈夫だよ。まずはやってみることだよって背中を押されて。今は、さらに成長したいと思えるようになったので、あの言葉は大きかったです。」
女性の昇進を阻むものとは
女性社員が管理職への昇進を打診されたときに、すぐに「やります!」と言えない背景にはいくつか指摘されています*。管理職になると、長時間労働もやむを得ない、という会社の雰囲気や実態を見ながら働いてきた女性にとっては、ここは無視できない要素となります。特に子持ち世代の女性社員にとっては、ただでさえフルタイムで自分や家庭の時間が限られている中で残業が加わると、家族時間や自分の睡眠時間までも削ることになりかねません。
また、それまで社内に相談できる横のつながりや斜め上の人がいないのも、女性が昇進に対して二の足を踏む原因となりうるでしょう。管理職が部下の能力を活かしながら目標を達成する役割だとすると、部下とどう信頼関係を構築したらよいのか、どう育成していくのか、といったことに関して悩みを持つのは自然なことです。既にプロジェクトリーダー等の経験を経て管理職に昇進した女性社員であれば、昇進のハードルはそこまで高くないと感じられるかもしれません。逆に言うと、有能な女性社員に対しては、管理職登用の数年前にはリーダーレベルの責務を与え、適宜サポートをしていくという中長期的な時間軸とサポート体制を準備しておく必要があります。
とはいえ、もうリーダーを経験したのだから、管理職への移行は問題ないでしょうという油断も禁物です。管理職にはどんなことが「難しさ」として想定されるのか、逆にどんなことが「やりがい」になるのか、管理職になるというのは本人の成長にとってどう関わるのか、といったことを丁寧に説明をする必要があります。管理職になる前後においても、こういった精神的なサポートがないままだと、意欲や関心がある女性でも「管理職=長時間労働=孤軍奮闘、、私には無理」という結論に至ってしまうこともあるのです。
女性を後押しする言葉の力
先のAさんやBさんの話に共通するのは、第三者や上級職の人の存在です。そしてこういったサポーターたちは彼女たちの働きぶりを普段からよく見ていて、「この人だったら任せられる」という、本人たち以上に昇進に対する確信を持っていました。打診をする時に聞かれる、女性社員の「なぜ、私なの?」という不安に対しては、「あなたのxxというところをとても評価している。」と具体的に伝えると、本人たちの自信につなげることができます。
ここで重要なのは、十分に能力がある人でも、自分に自信が持てないという心理的傾向があるということです。インポスター症候群という言葉を聞いたことがありますか。これは、周りが本人の能力を評価しているにもかかわらず、自分自身を過小評価したり、否定的に捉えたりする心理状態を意味します。こういった状態だと、「うまくいったのは、私の実力ではなくて周りのおかげ」や「たまたま運が良かったから」ということだけにフォーカスしてしまいます。そのため、失敗や批判に対して不安が募り、目の前の新しい挑戦に対して後ろ向きになってしまいます。このインポスター症候群は男性にも見られる傾向ではありますが、女性の方が多いといわれています。
だからこそ、女性社員に昇進の話をする際には、より注意を払わないといけないのです。「この人は私を過大評価している。」と、本人が萎縮しないように、そして勇気づけるためにも言葉を選ぶ必要があるのです。さらに、1回の打診で断られても、本当にその人の登用が、本人にも会社にとってもプラスになるのであれば、粘り強く声をかけ続けて欲しいと思います。その間も、先ほどの管理職になることの意義や、周囲としてどんなサポートができるのか、もしくは本人がどんなサポートを望んでいるのかといった点を確認する作業を怠らないで欲しいと思います。
さいごに
私自身のキャリアを振り返ってみると、大事な局面での意思決定には上司や先輩の「あなたならできるはず」という言葉をかけてもらっていました。そして、今でも不安や恐れを感じたときには、過去の小さな成功体験を思い出したり、書き残してきた社員や関係スタッフから頂いたポジティブな言葉の数々を見返して、自信を取り戻すようにしています。
「うちの女性社員は昇進意欲がないんだよね」とあきらめる前に、上司や経営層は「もしかしたら、女性たちが活躍したいと思ってもらえる環境になっていないのでは」と問いて欲しいと思います。そして、有能な人材に少しでも昇進への意欲や関心が見られるのであれば、登用の数年前から彼女たちの経験値を戦略的にあげていき、その間もサポーターとして定期的に自信をつけてもらうための関わりが必要です。
「有能な人材はきっと昇進したいと思っているはず」、「自分で手挙げをするはず」と待ちの姿勢は禁物です。「この会社でキャリアを積みたい、挑戦してみたい」と思ってもらうための環境や体制に取り組むことで、多様な人材はきっと開花していきます。
*今回の参考文献:中原淳・トーマツイノベーション(2018)「女性の視点で見直す人材育成」この本には、女性活躍推進とは女性管理職を増やすことではなく、女性を含む誰もが、長くいきいきと働くことができる職場づくりの実現である、とあります。その最初のとっかかりとして、これまでマイノリティーとして位置づけられてきた女性に着目すると、慣習的な働き方がフィットしなくなってきたところがポロポロと見えてきます。人材不足が問題になる中、多数派(男性・日本人・正社員)重視の働き方を踏襲するのではなく、より多様な人材が活躍できる職場環境をつくるために、会社の「今」を捉えなおすのに必読の本です。
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